だがそれも嘗ての話となり、永禄十三年のこの頃には武田信玄の領地なのである。
信玄の駿河侵攻は二年前から始まり、今年一月、完全に駿河を手中に納めた。
侵攻の際、信玄が三河の徳川家康に、
「大井川を境に、東を武田、西を徳川で攻めて今川を滅ぼし……」
と、持ち掛け、今川領分割の密約を結んでいたので、大井川を挟んだ向こう側の遠江は家康のものであった。
つまり、大井川は武田と徳川の国境である。
この大井川に沿うようにして、武田領側に、ある一本の道が走っている。険しい山々の間を下り流れる川に、寄り添うような道であるから、これは中々に厳しいものであった。
国を行き来する商人も、わざわざ足場の悪い峠道を選ばないので、此処で人の通行を見ることは滅多にない。それにより近頃は人の世話を受けず、道は閉ざされ始めている。
こうした緑陰の間を、四月半ばの陽射しが潜り抜けて、点々と道に光を落とす。
生い茂る草が不自然に揺れ、地にある陽の染みが何かに踏まれた。
恐らく、栗鼠や鼬以外の動物が通ったのも、”何年ぶり”であった。
一人の乞食男が現れたのだ。
薄汚れた布で躯を辛うじて多い隠し、杖を支えにして、山を下っている。草葉に紛れると、まるで枯れ木のように景色に溶け込んだ。
乞食はその調子で一刻程歩み、すると山の麓に近付いた。道は随分なだらかである。
やがて道幅が広がり、一本の細道と合流した。これが安倍晴明縁で参拝客の多い寺に繋がっているし、大熊長秀城主の小山城城下へ行く街道にも後々出ることとなるので、漸く、商人や町人等の姿が見え始めた。
この人の多さから、小さな城下町もそれなりに繁栄していたのが窺える。
疎らにある人の列から外れて、乞食は木陰に腰を降ろした。白濁した瞳を前の道に向けて、通り過ぎていく人々を目で追い掛ける。
どうやら、物乞いをするらしい。
「もし……もし……」
ゆらり、と身を乗り出し、通行人の着物の裾を掴んだ。
こうした乞食の扱いというのは、昔も今と変わらず、蔑んだ目で見る方が多い。
突然躯が重くなり、蔑む対象に着物を掴まれているのを知った中年男は、
「おい、離さんか!」
こう怒鳴り付け、八十にも見える老いた乞食を力の加減無しに突き飛ばした。体格の良い者に跳ねられて、乞食の躯は、風に吹かれるかのように地面に転がった。男がこれを軽蔑の眼差しで射、立ち去っていく。
土埃にまみれた乞食はぶつぶつと何かを呟くや、躯をゆっくりと起こし、再び元の位置に戻った。
幾人にこれを繰り返した。だが、誰もこの乞食に物を与えることをせず、蹴ったり、叩いたり、突き飛ばしたりする。
懲りずに、 人を待つ乞食。
死んだ魚のような不気味な眼が、ある一人の姿を捉えた。
乞食は吸い寄せられるようにふらふらと近付いて、
「もう何日も食っていませんで……お恵みを……」
相手は若い女であった。
乞食がその腕にしがみつく。命綱に掴まるように華奢な腕をしっかりと抱き締めて、離さない。
瞬間、乞食によって、着物の袖口へ使い古された布雑巾のようなものが差し込まれた。
すると、動揺し固まっていた女が、反射的に乞食の腕を叩き落とす。
「いや、汚ならし……」
怪訝な顔をして、これも、乞食を突き飛ばした。
袖の埃を払ってから、逃げるようにその場を過ぎていく。
「あぁ……。こわい、こわい……」
地に伏せた乞食が消え入りそうな声で呟いた。
やがて、人数が少なくなる。乞食は立ち上がり、林の中に姿を消した。
先程、乞食にしがみつかれた若い女は藤紫の小袖を細かく揺らして、小走りでいる。左手に有名菓子屋の包みを抱えて城下町に入ると、大通りを通って城から離れるように進む。それから、三本目の道を左に行く。
すぐ左手に”研師・榊庄右衛門”の店があった。女はそこの開け放たれた戸をするりと潜って、店の奥で刀を眼前に翳して目を細めている老爺に、声を掛けた。
「庄右衛門殿、帰りました」
「ん、おう」
老爺――庄右衛門が刀を下げ、女に皺だらけの笑みを向けた。
「、買ってきてくれたか」
「ええ、買ってきましたとも。こんな甘ったるいものを、よく食べられますね」
「味覚の衰えた爺にはそれが丁度良い。こっち、置いといてくれ」
「はいはい」
が床に上がり、庄右衛門の側へ包みの中を広げてみせた。
途端に甘い匂いが香ってきて、は顔を顰めた。 こうした表情をすると、は二十半ばの女であるが、まるで十代の小娘のような幼さを帯びた。
「お前も食べな」
「いいえ、要りません。庄右衛門殿だけで、どうぞ」
この菓子、城主御用達の品物である。
だから、それ程に高価である。
それでもこのような老爺がに買いに行かせ、日々の楽しみとして食べることが出来ているのは”研師の庄右衛門”として、かなりの働きをしているからである。
「あ、そう。さっき小平太に会いました」
「ほう。此処まで来るとは、何用かな。と言っても、頭領からの用であろうが」
「ええ、きっと。まだ文を読んでいませんので……」
が袖口から、折り畳まれた茶色い布生地を抜き出した。
開き、その面に目を這わせる。傍らの庄右衛門はと言うと、菓子を頬張り口端に砂糖を付けながら、の言葉を待っている。
は一度読み、二度読んだ。
「早速、此処を出なければ」
言い、顔付きを変えて、すっくと立ち上がった。
「む……」
庄右衛門が唸るのを後ろで聴きながら、箪笥の中から黒い巾着袋を出し、それから風呂敷で包み始める。
「何処へ」
「京ですって」
「ふぅん……。京……」
空の一点を見つめながら忙しなく口を動かし、ごくり、と飲み込むと、抜き身の刀を隅に退け、庄右衛門も荷を纏め始めた。
ものの数分足らずで、と庄右衛門は一抱えの荷を作り、裏口から店を出た。
「小平太は、十八になりますか」
「あぁ……そうであったか。もうそんな歳になっていたか。顔も躯も、随分大人びてただろう」
「大人びてたも何も……。まるで八十の老人みたいでして……」
「ふ、ふ。あやつ、変装術だけは抜きん出ておったからの」
「”だけ”?」
「ん。それ以外は使い物にならんぐらい、めっきり駄目でな」
これから二日目の夜。京にある、医師、半井驢庵の屋敷の門前で轟々と篝火が焚かれていた。
厳重な警備が敷かれている。二刻ごとに門番が代わり、丸一日中、体格良い兵達の眼差しが、食い付く獲物を探す野良犬の”それ”のように、辺りに向けられていた。
ここ数日、この状態が続いているのだ。
それもその筈で……。驢庵の屋敷は、今、織田信長の宿舎となっていた。
永緑三年の桶狭間にて、尾張に侵攻してきた今川を破り、台頭を果たしてから、とてつもない早さで勢力拡大を成している信長、である。
この信長と言えば、今頃は越前の朝倉を攻めている筈であった。だが、十人のみの供を連れて、京に滞在している。
凡そ、一週間程前になる。
その頃、織田軍は朝倉義景の支城を目の前にして、金ヶ崎にあった。戦況は、織田が優勢である。
陣中見舞いとして、信長の妹であり、織田の盟友、浅井長政の妻であるお市から、両端を縛られた小豆の入った袋が送られてきた。使いの者が献上してきたこれを見た信長は、
「陣を払え。退却ぞ」
”両端を縛られた小豆袋”の意味を早々理解し、こう、家臣に言い放った。
「え、え……?信長様、これは、どういう……?」
突然の命令に目をぱちくりとさせ、小豆袋を指して訊ねたのが、木下秀吉。のちに姓を羽柴、豊臣と改める。
信長は小豆袋を秀吉の眼前へ突き付けると、それを握り締めた。
秀吉が息を飲む。
袋へ信長の指先が食い込み、ぶつり、と破れた。
ばらばらと音を起てて散らばる小豆を目で追って呆然とする家臣共へ、
「この小豆は、織田である」
信長は中身の抜けた袋を捨て、言った。
秀吉の面が呆けたものから一変、はっ、としたものになった。
「浅井の……裏切り……」
秀吉の細い喉から、掠れた音が出た。
「長政殿は織田を裏切って、朝倉に味方するっちゅうことですか……!」
皆がどよめいた。
朝倉と浅井は、現浅井家当主・長政が生まれる前からの古い同盟関係にあるし、互いに、深く信頼しあっている。
美濃の斎藤氏を攻めるに、その西に位置する近江の浅井が重要であるとした信長が、浅井に妹のお市を嫁がせ、同盟を結ぶ際には、
「朝倉家とは敵対をしないで頂きたい」
長政はこう条件を付けており、信長もそれを快諾した。
したのだが……。
信長はそれを無視し、浅井には何も伝えずに三万の兵を引き連れ、こうして朝倉を攻めたのである。
力大きい義兄を取るか、長く、深い信頼関係である朝倉を取るか。
浅井家の家臣達は、
「織田をお取りなされ」
声を合わせ言ったが、義に厚い長政は、迷わず、朝倉を取った。
お市から送られてきた両端の縛られた小豆袋の意味は、小豆が織田である……とまで言えば、全てを言うこともない。
「浅井が、背後から攻めくるのか……」
何処からか、このような言葉が聴こえてくる。
「……信長様。殿軍、このサルめにお任せくれませぬか」
動揺する家臣の中から、秀吉が一歩踏み出した。
殿軍は、味方を無事に逃がす為にある。つまり、囮だ。退きながらの交戦は、死と隣り合わせ、生死の淵の戦い。
それを承知で、秀吉は自ら、殿軍を名乗り出たのである。
その瞳には、
(これで、死ぬかもしれん)
という思いは微塵も無かった。
(この役目、わしが果たすんじゃ)
一切の迷いが無い、異常な程の決意が含まれる光が、湛えられていたのだ。この眼光、その場にいる誰もが目撃した。
「やってみよ、サル」
秀吉は金ヶ崎から撤退する織田軍の殿軍を務めた。
”金ヶ崎の退き口”
秀吉の働きは、後世にこう伝わる。
秀吉が率いる殿軍あって、こうして信長は京に入った。
信長一向の姿は過酷な撤退戦により汚れきっていたが、何処か清々しく、そして堂々としており、此度が逃げ戦であるとは思わせぬ様であった。
織田家当主と家臣達を含んだ屋敷の佇まいというのは、普段の医者の住居とは遥かに違ってしまっている。医者の地位を表す立派な門構えが、不気味に……まるで一つの巨城のもののように見えてくるのだ。
中央の屋敷に、信長。分館に家臣等が寝泊まりをしており、分館の一番左側の室を、信長の供の一人”滝川一益”は使っていた。
一つの灯りを傍らに、部屋の中央にて、両腕を胸の前で組み、重く瞼を閉じている一益。ゆらり、と灯りの炎先が小さく揺れると、刀傷のような細目の瞳が開かれた。
「長旅、御苦労」
締め切られていた障子がいつ開かれたのか、そしていつ再び閉じられたのか……。常人が判断出来ぬ一瞬の間に、一益の目の前へ、黒いものが跪いていた。
「どうだ、京は」
「都……でございますね。駿河の田舎国と比べれば」
「それは確かに、そうであろう」
一益の堅い表情が、にわかに緩んだ。
「小山城のことは、後々訊こう。今はそれより、お前に頼むことがある」
一益の声が響き終わると同時に、伏せていた面をゆっくりと上げたのは、庄右衛門と行動を供にしていたであった。
滝川一益――桶狭間の戦い以前から織田家に仕えている武将である。生まれは近江甲賀郡。甲賀は周りを険しい山々に囲まれた土地であり、一つ山を隔てた向こう側の伊賀と同じ、”忍びの国”である。
現在は武将であるが、元は忍びの一益なのであった。
ある一件で甲賀を出奔してからは、二十人の忍びを従えて、信長の為に忍び働きをしている。
小山城城下に住んでいた研師の榊庄右衛門も、も、一益を頭領とする、滝川忍びの内の一人なのである。
「朝倉と浅井の挟撃を避ける為に京へ逃げてきたが、兵力を十分に蓄え次第、直ぐに岐阜へ発つ予定だ」
「はい」
「。先ずは秀吉殿を助け、京へ案内しろ。次に、使者となり、各地を走ってもらう」
「承知しました」
「それから……」
「はい」
「岐阜への道中、大殿の護衛をお前に任せる」
(……大殿の……?)
の瞳が揺れた。僅かに、戸惑いの色を見せる。
一益がそれを、じっ、と見つめると、は、はっとして、平常を装いながら、隠すように顔を伏せた。
「はい。承知しました」
応える。
一益は顎に蓄えた髭を撫でながら、目の前の女忍びへ柔らかい眼差しを向けた。
「のう、」
「何でしょう」
「分かっておろうな」
「はい」
「主の主は、主」
「はい」
「大殿の護衛を任せられたからには、この一益の命は見るな。大殿だけを見ろよ」
「勿論で」
「よし。下がれ」
女が頷き、
「それでは、御免……」
呟くと、その姿は音も無く消え失せた。こうした忍びの術は基本的なものであるのだが、の術の”洗練さ”は一益も一目置いている程であった。
(……)
残された一益は暫く、が居た場所を眺めていた。
そして、先程を見つめていたような瞳に、傍らの灯りを映す。
一益には、炎の奥に、ある情景が浮かんでいた。
実に、四半刻程である。一益はその間身動ぎもせずに赤い炎を見ていると、それから苦し気に瞼を下ろして、部屋を照らしていた小さな灯りを握り消した。
は屋敷に忍び入った時と同じ様にして、そこを去った。
闇の中を、庄右衛門が待つ木小屋を目指して走りながら、の表情は人形のように”無”となっていた。
(大殿……。”織田信長”……)
布に覆われた唇が、微かに震えている。声には出さず、男の名をなぞっていた。
森の奥にある今にも崩れそうな小屋を目にして、は脚の速さを緩めた。
薄い戸を叩き、
「私です」
言えば、それがゆっくりと開かれる。隙間から、ぬっ、と庄右衛門が顔を出し、手招きをしてを小屋の中へと導いた。
「随分と早かったな。会わぬ時を語る余裕も無いか」
「この状況では、そのような時間も惜しいようで……」
「そうか……」
庄右衛門は炉で煮える鍋の熱い汁を、に手渡した。
礼を述べつつ、は椀の中身を啜った。
「それで……。頭領は何と?」
庄右衛門の老いて垂れた瞼から僅かに覗く、黄色く濁った白眼と、比較的小さめの黒い眼が、若い男のもののようにぎらぎらと光っている。
忍び働きを目の前にした時の、庄右衛門の眼光の強さに、
(躯こそは老いたが、庄右衛門殿の忍びの精神は、微塵とも衰えぬな)
は常々、こう思っている。
「秀吉殿を迎えに行け、と。これは私と庄右衛門殿だけで、いいでしょうね」
一益の言葉を伝える。
それから、恐らく、一益がと庄右衛門を呼び出した本来の目的である、
”織田信長の護衛”
を話すと、庄右衛門は苦いものを食べたような顔をした。
「庄右衛門殿」
「分からぬな。儂が行くのは、よい。だが何故、も行く」
「……」
「頭領はあやつからを遠ざける為に、わしの所へ……駿河へやったのではないのか」
「……私も、もう、子供ではありません。頭領もそう思ってらっしゃるのでしょう」
「いいや、お前は……」
尚続けようとする老爺に、は微笑み、首を振った。
「昔など、とうに忘れました」
庄右衛門は閉口した。
無理矢理に閉じた唇が歪み、男は依然として納得のいかない様子である。
が苦笑いをしつつ、椀を置いた。この無言の時を破るように、戸口が鳴る。
庄右衛門はに視線を向けたまま、戸の向こう側の存在へ声を掛けた。
「誰だ」
「爺さん、俺だよ」
「おう。入れ」
が上半身を捩らせ、その人物を出迎えた。
小屋に、これまた黒い布に身を包まれた者が入ってきた。背が高く、体格が良い。戸を締め、頭巾を剥ぎ取ったその者はの顔を見るや否や、
「あっ。め」
目を釣り上げた。
眉間に何本もの皺を作った顔を突きだして、まるでに威嚇するようである。
その姿を見て、くすくすとが笑い出した。
「年上に向かって、”め”だなんて」
「おい、。あの時、本気で俺を叩いたな。痛かったぞ」
「本気でやらなきゃあ、不自然でしょう」
「だが、加減ってもんがある」
この鬼婆――そう言っての横に腰を下ろした男。以前の腕にまとわりついた乞食……に化けていた、”小平太”である。
「餓鬼のようなことを言うな、小平太」
「だって、痛かったんだ。まるで石で叩かれたみたいに……。爺さん、それくれ」
「汁ぐらい自分でよそらんか、馬鹿」
「……」
小平太は庄右衛門の孫である。
小平太の父であり、庄右衛門の子である”弥平”も滝川忍びの一人であったが、小平太が六つの時に忍び死にをしている。それからは庄右衛門が小平太が十三になるまで面倒を見ていた。弥平と違って中々に忍び働きが出来ぬ小平太であるから、庄右衛門、この男には厳しい。
「小平太も京に来るなら、私達と共に来ればよかったのに。化けて現れるから、てっきり小平太は、他に頭領からの言い付けがあって、私達とは別行動なのかと……」
「どうせ、己の変装術を見せたかったのだろう。変装術だけにはな、自信があるからな」
「違うわい。あの後、他国にも用があったんだ」
「ふうん……。ま、よいわえ。で、。いつ此処を発つ?早い方が良かろう」
「ええ。では……鐘が鳴る前に京を出ましょう」
「分かった。忍具を纏めおこう」
「頼みます」
「うん」
と庄右衛門が見つめあい、頷く。
父娘のような二人の姿に、小平太がじっとりとした視線を注ぐ。庄右衛門はそれに構わずに席を外したが、は、
「どうしたの」
「別に」
「言いたいことがあるなら、言いなさいな」
年下の小平太に宥めるような口調で問い掛ける。
男は、不貞腐れた顔をしている。
「小平太……」
が再度促すと、小平太はが使っていた椀を取り、自ら、汁をこんもりとよそって、口に掻き込んだ。
男が全てを飲みこんで一息吐くのを待つ、。
小平太は咀嚼をしながらを、ちらり、と窺い、
「俺は……」
途端、情けない顔になった。
「俺は、留守番か?」
「特に頭領は仰らなかったけど……」
「ほら……。留守番だよ。というよりも、頭領。俺を忘れてやがる」
「そんなこと無い」
「いいや、そうだ。俺自身、よく分かる」
「小平太は、頭領と私達との連絡係をしているでしょう。忘れるだなんて……」
「どうだかな。連絡係も、今は他の奴がやってるんだよ。今回偶々そいつが居なかったから、俺だったんだ」
小平太はいつの間にか、視線を膝の上に落としていた。
「頭領に……。”お前は変装術しか取り柄がない。使いようがない”と言われたよ」
ぼろ布に包まれた木箱を持って、庄右衛門が小屋に戻ってきていた。
13.10.9
・
・
・
<< END >>